良い歯医者さんの選び方(私のかみ合わせ治療体験から)

私がプロフィールにかみ合わせ治療で苦労したことを綴っているので、かみ合わせ治療や、良い歯医者さん選びについて、お客様から相談されることが多いです。

そこで、今日は良い歯医者さん選びにまつわる、私の体験談をお話したいと思います。

良い歯医者さん選び。

これは、本当に難しいです。

かみ合わせが安定していなかった頃、私は、大学病院で教えている先生、本を出版されている先生、かみ合わせ治療専門をうたっている先生などなど、数え切れないほどの名医と言われる歯科医をジプシーしました。


なにしろ、某大学病院の付属歯科医院に相談したところ、頭蓋骨に対して顎が左右非対称に成長しており、顎切り手術後歯列矯正をするしかないと言われたり、

某矯正専門クリニックでは、かなりの難症例のため、普通の矯正より料金がかさみ、300万円以上はみてほしいと言われたくらいの難症例だったのです。


顎切りをせず、そこまで高額な料金を払わずに、なんとか体調を改善したいというのが私の願いで、そのためにあらゆる有名な歯科医院の門を叩いたのです。

しかし、どの歯医者さんにも通い続けることはかなわず、どの歯医者さんも私のかみ合わせを治すことはできませんでした。


私が上に挙げた数々の優秀な先生のところに通い続けることが出来なかったのは、私が通うのをやめてしまったからでも、先生に治す技術がなかったからでもありません。

その先生の信じる歯科理論と私の体の反応が合わず、その現実を、先生のプライドが許さなかったからです。


先生が「これで良くなるはず」と確信する理論に従って治療をしても、私の体調は悪化するばかり。

「もう少し噛み合わせが高ければ…」「もう少し噛み合わせを(前後や左右に)ずらしてもらえないでしょうか…」、私がそうした希望や違和感を訴えても、私の望むようにはしてもらえません。

なぜならそれは先生の理論に反するからです。

「そこを何とか、悪化しても自己責任でいいですから」

と懇願して、私の望む通りに調整してもらうと、いつも頭と体の重心が安定し、体が楽になるのです。


はあ、やっと身体が楽になったとホッとするのもつかの間。

プライドの高い優秀な先生は、素人の患者に口出しされることを嫌いますし、

「患者本人の望む通りに調整したほうが、かみ合わせが改善することがある」という事実を受け入れられません。

自分の歯科理論より、たかが一介の素人患者の感覚のほうが正確なこともある、というのは受け入れがたいことなのです。


それで、治療回数を重ねるごとに先生の機嫌は次第に悪くなり、最終的にはいつも

「俺のやり方が不満なら、もううちでは診ない」となるのです。

そうやって治療や検査が中途半端に終わったことで、これまでに無駄になった治療代や検査代は何十万円にもなります。

今後の治療を拒否され、歯医者さんから泣きながら帰ったことも数え切れないほどあります。


けれど最終的に、私は「この先生に一生お世話になりたい」と思える歯医者さんに出会い、噛み合わせ治療を最後まで仕上げて頂き、すっかり噛み合わせが安定しました。

その先生の何が素晴らしかったかと言えば、技術は言うまでもないことですが、それ以上に素晴らしかったのは謙虚さでした。


その地域で子供からお年寄りまで歯科全般の治療に長年携わってきた確かな技術がありながら、

先生は、私の感覚のほうが、歯科医の理論よりも正確だということを認めてくださり、私の希望に丁寧に寄り添ってくださりながらも、

専門家としてここは引けないという場面では的確にアドバイスしてくださいました。


「井川さんがもっとこうしてほしいとおっしゃる内容は、よくよく調べてみると、結果的にいつも正しくて歯科的にも理にかなっているんですよ。

普通の人はここまで感覚が鋭くないんですが、井川さんは感覚で分かってしまうからすごいなあと思います。」

と言って頂けて、本当に涙が出るほど嬉しかったし、一生この先生にお世話になろうと思いました。


私の感覚が鋭すぎて、ご迷惑をおかけすることも多いのですが、いつも嫌な顔ひとつしないで対応してくださっています。

もちろん技術も確かで、対応も優しく丁寧でありながら、専門家よりも患者本人の感覚のほうが正しいこともあることを認めてくださっているというのは、すごいバランス感覚だと思うのです。


この点は、私の整体に望む姿勢として、いつもお手本にしている姿勢です。

他人が他人目線で治しても間違っていることがあるということは、自分自身の経験から常に心していることです。

もちろん常に患者に聞かなければ何も判断出来ないオドオドした治療者である必要はありませんし、

必ず患者の言いなりにならなければならないということではありません。


ただ、少なくとも本人の身体のことは本人が一番分かるという点においては、どんな専門家も患者本人の体の反応に対して謙虚であるべきだと思っていますし、

「自分が治してやる」という意識は捨てるべきだと思っています。


歯科医ジプシーをしていた頃、自分の感覚の鋭さを恨めしく思いました。

遅刻やキャンセルをしたわけでも、治療費の支払いが滞ったわけでもなく、毎回真面目に通っていたのに、

自分の感覚が鋭いせいで歯医者さんの気分を害してしまったために、中途で治療を放棄されてお金も労力も無駄になり、

そのたびに傷つき、また一から歯医者探しを始めるのはとても辛い地獄のような日々でした。


でも、今思い返すと、なんだか笑えてきます。

ほんのちょっとかみ合わせの位置を私の希望に合わせてもらいたいとお願いしただけで不機嫌になる、その先生のプライドって一体なんだろうと思います。

私は虫歯と健康な歯の見分けすらつかないずぶの素人なのですから、優秀な先生が張り合うような相手ではないはずです。


それに、患者本人の感覚と張り合うことは無意味です。

なぜなら、患者本人の感覚と張り合い始めたら、先生に勝ち目はないからです。

それは、「患者の感覚のほうが正確なことがありうる」と認めてしまいさえすれば済むことなのです。


感覚というのは理性では統御できません。

絶対音感というものがありますが、どんな音でも音階で聞こえてしまう人に、音階で聞くなと言っても無理です。

当院のお客様は低気圧に弱い方が多く、そういう方は関東在住でありながら、沖縄に台風が近づいたことが感覚的に分かり、頭痛がしてくるそうです。

私の長男はものすごい偏食なのですが、とある有名メーカーの大人気のインスタントラーメンを「腐った粘土の味がする」と形容しました。

そのくらい鋭敏な味覚を持っているからこそ、長男は何でも美味しく食べることはできないのです。

お酒の飲める人飲めない人。特定のものにアレルギーのある人ない人。香辛料がダメな人。

私はカフェイン入りの飲料全般がダメです。

そんなふうに、普通の人は気にならないものを、感覚的に鋭く感じてしまう人はいるのです。

野口整体の体癖で言えば、12種過敏型の体癖の人です。

それを医師が「感じるな」というのは不毛でしかありません。


さて、かみ合わせ治療で歯科医ジプシーをしていた頃の私は、自分の感覚の鋭敏さを恨めしく思い、こんな体質で生まれなければよかったのにと思っていました。

けれど、今その鋭敏な感覚は、整体の施術で大いに活躍してくれています。


お客様の身体を歪めたり緊張させたり痛めたりしている、お客様の身体に生じた微細な「流れ」。

これを読みとり、お客様のお身体の悩み解消のお手伝いができることは、私の鋭敏な感覚のおかげです。

また、お客様の身体の歪みの原因のひとつとして歯の問題があることを見抜くことができるのも、自分の経験のたまものです。

歯の治療を受けることを勧めたことで体調が改善したお客様も何人かいらっしゃいました。

歯科医ジプシーをして沢山の辛い経験をしたことは、現在の仕事にも育児にも十二分に役立っています。

それは自分に与えられた特別な恵みのように感じられるのです。


そのようなわけで、良い歯医者さんとは…、

歯医者さんに限らずどのような専門家にも(私にも)言えることですが、優れた技術を持ち、自己研鑽を怠らないことはもちろんですが、

自分を絶対だと思わず、むしろ素人にさえかなわないことがありうる、ということを認め、患者の訴えに耳を傾けられる謙虚な方だと私は思っています。

むしろ華麗な経歴や、出版や講演などの精力的な活動をされている先生は、ご自分のプライドで目を曇らされている場合がありますので、要注意です。


【追記】

なお、「井川さんが最終的に受けた歯科医院を教えてください」という問い合わせを非常に多く受けますので、追記いたします。

私が最終的にかみ合わせを治していただいたのは、ごくごく普通の地域の歯医者さんです。

子供からお年寄りまで、乳歯から入れ歯まで取り扱うような一般的な歯科です。

先生は人間的にとても懐の深い方で尊敬できる方ですが、特に顎関節症やかみ合わせがご専門というわけではありませんし、その歯科医院では歯列矯正は扱っておりません。


私が独学でかみ合わせと身体の不調の関係について勉強し、私が望む通りの治療をしてくださることを無理を承知でお願いし、

それによってようやく体調が改善しましたが、それでも治療の終了までには3年くらいかかりました。

先生の見解と私の要求がたびたび対立することもありましたが、

「体調が悪化しても構わないので、私の望むようにやってください」とお願いしてきました。


このような状況ですので、かみ合わせと身体の不調についてご自分で勉強なさって自分なりの結論に達し、

治療によってどのような結果になろうと自己責任で受け入れる覚悟や、長期にわたる治療の間、自分の方針が揺るがないという自信がなければ、

その歯科医院に行っても何一つ変わらないでしょうし、むしろ悪化させる可能性もあると思います。

治る保証も何もない、暗いトンネルの中にいるようなとても辛く長期間に渡る治療で、リスクも高いです。

少々の不調くらいで気軽に始めることは絶対にお勧めできません。


歯科医院の問い合わせが非常に多いことから、かみ合わせの問題に悩んでいる方がこんなにも大勢いらっしゃるのかと驚かされますし、

私自身もかみ合わせに苦しんできた者としてお力になりたいのは山々ですが、

以上のような理由により、大変申し訳ありませんが、歯科医院のご紹介はできかねますので、歯科医院についてのお問い合わせはご遠慮ください。

ご期待に沿えず申し訳ございません。

皆さまが一日も早く、望む治療が受けられますことをお祈り申し上げます。